第130話 暁月編・5

ニッダーナがゾットの塔に捕らわれてしまい、撤退せざるをえなかったクロです。

第129話 暁月編・4
クロです。 エスティニアンという貴重なサンプルに錬金術師が歓喜している! 護魂の霊鱗 さて、クルルに依頼を出したのはここデミールの遺烈郷の錬金術師ニッダーナ。 アルカソーダラ族の女性だ。 ヴァルシャンの持ってきた竜鱗に歓喜した錬金術師たちは...

ラザハンへの誘い

サベネア島へ戻ると顛末を聞きつけた太守からヴァルシャンを通じて訪問の誘いがあった。

情報を共有したサンクレッドとウリエンジェ、エスティニアンと共にラザハンに向かうことに。

初のラザハンだが街の散策をすることもなく太守の住むメーガドゥータ宮へ案内される。

そこで待っていたのは太守を名乗るアヒワーンというアウラ族の男だった。

護魂の霊鱗を作る際に遺烈郷に協力したことへの礼を直接したかったのだとアヒワーンは言った。

ニッダーナを捕らわれたクロとしては非常に複雑だ。

椅子に腰かけるようにすすめられたがエスティニアンはアヒワーンの後ろの大きな帳の奥が気になっている。

「茶番はよせ」と言うエスティニアンの言葉にしらを切ろうとしたアヒワーンだったが帳の奥から声がして帳が開いた。

そこにいたのは大きな竜。

エスティニアンはずっと竜の気配を感じていたようだ。

ヴリトラと名乗ったその竜は七大天竜の一翼、ミドガルズオルムの末子だった。

ラザハンには盟友たる竜がいる、とは聞いていたがさすがの大物にサンクレッド達もビックリしている。

ラザハンの成り立ちと本当の太守

アヒワーンからラザハン太守が竜を味方につけていると言うのは市井の噂にすぎず、本当の太守はヴリトラであると告げられるクロ達。

遠い昔ここラザハンの建つ大岩にはヴリトラがひとりで住んでいた。

そこにマタンガ族の祖先がやって来たが偉大なる竜の住処を決して侵さなかった。

さらにやってきたアウラ族も盟友たるアルカソーダラ族に習い竜を敬った。

そうして彼らはヴリトラと緩やかな関係を築いてきたが、大陸からヒューラン族が訪れて変化が起きる。

争いで多くの血が流れるのをよしとしなかったヴリトラが自ら進み出て戦いを平定した。

先住民とヒューラン族の間で和平の取り決めをしてヴリトラに誓ったことが竜の統べる国ラザハンの原型だという。

自分の力の大きさを自覚するヴリトラは、その力を求めて争いが起きるのを案じて国を作った者たちに表に出なくていいよう頼んだのだと。

アヒワーンの一族は代々人前へ出る時の表向きの太守としての役割を努めてきたのだそうだ。

平和主義で心優しい竜なんだな、ヴリトラは。

仮の姿

そんな話を聞いていたエスティニアンがヴリトラに問いを投げかける。

(それまで見えない角度でしかヴリトラが映らなかったから気が付かなかったが)

ヴリトラの右眼がなかった!

なんとヴァルシャンは人形で中身はヴリトラだったんだね。

館の中にずっといたのでは街や国の様子が伺い知れないから数年に一度人形を代えて太守のお使いをしながら外に出ているのか。

ヴァルシャンは二年前からだって言ってた。

なんで大人の人形じゃないのかは謎だがずっと年を取らないと不自然だからか?

なら少年の方が成長が早そうなんだけど、そこは人形の交代のサイクルを早くすることで不自然さをカバーしてるのか?

「どうりで最初に会った時から竜の気配がしたわけだ」

と言うエスティニアン。

「それを誤魔化す術式が組み込まれているから普通は気が付くものじゃない。やはり一時とは言え兄さんと身を共にしていたからかな。屠龍のエスティニアン」

と、返すヴァルシャン(ヴリトラの分身)

ん?なんかヤバイ雰囲気?

「私たちはどちらも、最初から真実に気付いていた。けれど互いに牙を剝かなかった」


「今はそれが全てだ」と言うヴリトラ。

兄弟を屠った男と、竜でありながらラザハンの太守を努めるヴリトラ。

暁の噂は知っていると言ったのだからティアマットとの共闘も知っているだろうしなかなか二人の間には一言で言えない思いがありそうだ、が今は言わないのだろう。

取引の提案

そんなヴリトラから改めて暁に「ラザハン太守として」取引を提案された。

霊鱗を用いて早急にゾットの塔の調査、できれば制圧をしたいのだが突入できる兵の数に限りがある地系ゆえ万全を期したいとのこと。

数々の蛮神を倒したことも、パガルザンやカルテノーでのこともやっぱり知ってた。

その強さと、ヴァルシャンとして見たクロ達の人柄を信じて依頼したいと言う。

人数分の霊鱗も用意するし引き受けてくれるならより多くの霊鱗も用意する、使い方は任せる。

という破格の提案!

光の加護がなくても塔に入れるなら各地の塔の制圧も現実味を帯びてくる。

「悪い提案じゃないが、さすがにこのメンツだけじゃ無理があるから一度戻って相談させてくれ」と言うサンクレッド。

「もちろんかまわない。易い依頼ではないのだから待てるだけ待とう、霊鱗を用意する時間も必要だからな」とヴリトラ。

「そういうことなら一旦オールド・シャーレアンに戻って・・・」とサンクレッドが言い切る前に部屋を出て行こうとするエスティニアンの背中にヴリトラが不安そうに声をかける。

「・・・協力は、頼めないか」

すると振り向きざまにエスティニアンは

こう言った。

「恩に着る」と言うヴリトラの言葉を背に部屋を出る一行。

もうね、ヴリトラに謝りたい気持ちでいっぱいだよ。

エスティニアンはこんな誤解されやすい態度だけど受けた依頼はきっちりこなすから!

聞かれないと答えない言葉足らずなやつだけど味方なら頼もしいから!

だから安心して待っててくれ!

という思いでラザハンをあとにするクロだった。

 

コメント